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東京高等裁判所 昭和40年(ラ)43号 決定 1967年4月21日

抗告人 医療法人社団外塚病院

主文

原決定を取り消し、本件を東京地方裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の趣旨および理由は別紙のとおりである。

これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

請求の放棄、認諾が無効な場合には、訴訟終了の効力を生じないのであり、この場合、当事者は期日の指定を申し立てて、手続の続行を求めることができ、裁判長は右申立があるときは必らず期日を指定して請求の放棄・認諾は無効であるか(したがつて訴訟は終了していないか)を調べなければならないと解するのが相当である。

ところで、原決定は、請求の放棄・認諾は既判力を有するから、請求の放棄・認諾の成立後にその無効を理由として手続続行のための期日指定の申立をすることは許されない(請求の放棄、認諾にかしある場合には再審の訴に準ずる訴によつて救済を求めるべきである。)との見解にもとづき、抗告人の本件期日指定の申立を不適法として却下したのである。しかし、請求の放棄、認諾の既判力は、請求の放棄、認諾が有効な場合にはじめて、生ずるものであるとすべきであるから、請求の放棄、認諾の無効を主張し、手続の続行を求めるためにされた期日指定の申立に対し、請求の放棄、認諾が無限定に既判力を有するという前提に立つて、右申立を不適法とすることは許されないといわなければならない。したがつて、本件期日指定の申立を不適法として却下した原決定は失当とするほかない。

よつて、民事訴訟法第四一四条、第三八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 新村義広 中田秀慧 蕪山厳)

別紙

抗告の趣旨

原決定はこれを取消す。

原裁判所は抗告人と相手方との間の東京地方裁判所昭和三七年(ワ)第六五一五号、同三八年(ワ)第六八二九号事件の弁論期日を指定せよ。

との決定を求める。

抗告の理由

原決定の理由とする処のものは「請求の放棄認諾により訴訟は既判力を伴つて終了するものであるから」再審の訴に準じる訴による以外救済方法はないというにある。然し乍右は左記理由により請求の放棄認諾(以下本件行為と略称)の場合はあたらないものと思料する。

一、民訴法第四二〇条に規定する通り再審の訴の対象となるものは確定の終局判決であつて、右以外のものに対する抗争は再審手続に準ずる手続を必要とせず法において許されたる如何なる方法によるも可能であると信ずる。和解において和解が無効である場合期日指定の申立により、裁判所は弁論期日を指定し審理が進行することが法律上許される限り本件行為についてもそれが法律上無効であるならば和解に準じた前記方法により審理を進めるも何等違法はない、和解も本件行為もその手続たる訴訟行為は両者殆んど同一であつて、ただ、既判力の範囲につき前者は和解条項に局限され後者は請求の趣旨とこれを軸出される処の請求原因となつているに過ぎない。然し乍和解も本件行為も共に既判力の及ぶ範囲は別として確定判決とは根本的性格が相違していて、本件行為を確定判決と同視し再審の訴に準じた厳格なる手続による救済方法しかないと云う説明には承服し兼ねるのである。

元来確定判決に対して再審の訴の如き厳重なる手続を要求した理由は既判力の問題よりは国家司法権が為した公権的判断を尊重することに主眼が置かれていると信ずる。従つて、本件行為の如く裁判官の面前でなす当事者の処分行為と裁判官が法に従い証拠調等を経由して為した判決とを同様に取扱ふ旨の原決定は既判力と判決の権威とを混淆した処により生じた議論であつて、取消すべきであると思料する。

二、次に民事訴訟は社会紛争を可急的速やかに正確に而も経済的負担を少なくして解決する一つであつて、法も裁判所もこの要請を度外視するわけにはいかない。

訴訟における経費と時間の節減については公権的判断という権威を阻害しない限り大いに重視すべきである。

そこで本件行為の有効無効の判断につき再審の訴に準ずる厳格なる手続を経なくては裁判の権威が害されるとは到底考えられない訴訟経済上原裁判所において本件行為の有効無効を審理すべきである。

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